
AI音楽制作に「設計図」を持ち込む ── Strudel × AI × Suno ワークフローの提案
「かっこいい曲作って」の限界
Sunoに「かっこいい曲を作って」と入力したことがある方は多いのではないでしょうか。
それなりの曲は出てきます。でも「なんか違う」と感じて、もう一回生成する。また違う。何回か回して「まあこれでいいか」で妥協する。
これは、設計図なしで建築家に「いい感じの家を建てて」と頼んでいるのと同じです。毎回違う家が出てきて、どれも「いい感じ」ではあるけど、自分が住みたい家ではない。
でも、設計図を自分で描くのは大変です。音楽の設計図を描くには、音楽の知識が必要だからです。コード進行って何?スケールって?リズムパターンの組み方は?これらを知らなければ良い設計図は組めません。
そこで、Claudeなどの対話型AIの出番です。AIの中にある音楽の知識を使って、一緒に設計図を作ることができます。そしてその設計図を、ブラウザで即座に音を鳴らせるプログラミング環境「Strudel」で試聴しながら磨いていきます。
2つのAIを使い分ける
ポイントは、AIを2段階で使うことです。
① Claude × Strudel で設計図を作る
② その設計図を Suno に渡して曲を生成する
Claudeが「音楽に詳しいアドバイザー」、Strudelが「その場で音を出せるスタジオ」、Sunoが「最終的に曲に仕上げてくれる工場」という役割分担です。
Claudeが何をしてくれるのか
「明るい曲」を音楽の言葉に変えてくれます
自分:「明るいフェスティバルソングを作りたい」
Claude:「D major の I-V-vi-IV はどうですか。フェスティバルアンセムの定番です。F majorだとトロピカル寄り、C majorだと王道ポップ寄りにもできます」
自分は「明るい」としか言っていません。でもClaudeが「明るい」を「Dメジャー、I-V-vi-IV」に変換してくれます。あとは選ぶだけです。
「なんか違う」を次の選択肢にしてくれます
自分:「ベースがダサい。もっとオシャレにしたい」
Claude:「フレットレスベースで滑らかな感じ、アシッドベースでジュクジュクした感じ、ウッドベースでアコースティックな暖かさ──どれが近いですか?」
「オシャレ」という曖昧な言葉を、具体的な選択肢に分解してくれます。選んだらStrudelで鳴らして確認。違ったらまた別の選択肢。この「対話しながら探す」プロセスは、Sunoのガチャ的な再生成とは全く違う体験です。
参考曲の構造を教えてくれます
「あの曲っぽいやつ」と言えば、Claudeがその曲のコード進行、BPM、キー、ジャンルの特徴を調べて教えてくれます。普通なら楽曲分析の知識と時間がいる作業を、会話一つでやってくれます。
トラックに合った歌詞を書いてくれます
Claudeはコード進行の雰囲気を理解しながら歌詞を書けます。明るいメジャーキーなら開放的な歌詞を、ダークなマイナーキーなら攻撃的な歌詞を。しかも「この行のリズムが変」「もっと仲間感を出して」と対話しながら一行ずつ調整できます。
Strudelで何を定義するのか
Strudelはブラウザで動く音楽プログラミング環境です。コードを書くと即座に音が鳴ります。ここで定義するのは以下の要素です。
ドラム・リズムパターン
どの打楽器が、どのタイミングで鳴るかを1音単位で指定します。
s("bd*4") // キック4つ打ち
s("~ [~ sd] ~ [sd ~] ~ sd ~ ~") // シンコペーションスネア
s("~ hh ~ hh ~ hh ~ hh") // 裏拍ハイハット
この「2拍目の裏、4拍目の表、6拍目で鳴るスネア」という情報は、「syncopated snare」というプロンプトでは絶対に伝わりません。Strudelで鳴らして「このリズムだ」と耳で確定しておくことが重要です。
コード進行・ベースライン・音色
コード進行のボイシングとベースのルート音を、音色と一緒に定義します。
// ベース:コード進行のルート音をsawtoothで
note("<d2 a1 b1 g1>").s("sawtooth")
// コード:D→A→Bm→Gをアコギで
note("<[d4,f#4,a4] [a3,c#4,e4] [b3,d4,f#4] [g3,b3,d4]>")
.s("gm_acoustic_guitar_steel")
同じコード進行でもピアノで鳴らすのとアコギで鳴らすのでは全く印象が違います。「太いベース」「明るいコード」と書くだけのプロンプトと、実際に音色を選んで鳴らして確認してから書くプロンプトでは、精度が全く違います。
メロディ
コード進行の上でメロディを書いて、響きを確認します。
note("d4 f#4 a4 b4 a4 f#4 d4 c#4").s("gm_acoustic_guitar_steel")
メロディをStrudelで鳴らすことで、コード進行との相性を耳で確認できます。そしてメロディの音数と歌詞の音節数を合わせられるのが大きなメリットです。1小節に8音のメロディなら、歌詞も8音節で書く。これにより、歌詞が曲に自然に乗ります。
何より、自分の中で「このメロディがいい」が確定した状態で歌詞を書けることが最大の価値です。
Sunoにはどう指示するのか
Strudelで作った設計図は、録音データとプロンプトの2つセットでSunoに渡します。
まず、Strudelで組んだ音をそのまま録音し、Sunoにリファレンストラックとしてアップロードします。これが設計図の本体です。Sunoがその音声を分析して、リズム・コード進行・全体の雰囲気に沿ったトラックを生成してくれます。音を言葉に変換するロスがないので、最もダイレクトに意図が伝わります。
その上で、プロンプトを添えます。録音だけではSunoに伝わりにくい情報──ジャンル、ボーカルのタイプ、曲の雰囲気──を言葉で補足します。ここもClaudeが手伝ってくれます。
130 BPM, D major, EDM, festival anthem, male vocalist
Acoustic steel guitar strumming, down-up strum pattern with accents,
D - A - Bm - G progression (I - V - vi - IV)
Deep sawtooth bass, D major root notes, punchy filtered attack
Catchy vocal melody centered on chord tones, range D4 to B4
Bright, sunny, maximum energy, summer festival
録音が「こう鳴ってほしい」を伝え、プロンプトが「こういう方向で仕上げてほしい」を補足する。この2つが揃うことで、Sunoの出力がぐっと意図に近づきます。
Claudeはトラックの雰囲気とメロディに合わせた歌詞も書き、プロンプトと一緒にSunoに渡します。メロディの音数に合わせた音節数で歌詞を書くので、トラックと歌詞がバラバラになりません。
なぜ2段階にするのか
「Sunoだけでいいじゃん」と思うかもしれません。でもそれぞれの得意分野が違います。
| やりたいこと | プロンプトだけ | Strudel × Claude を挟む |
|---|---|---|
| コード進行 | だいたい合う | 鳴らして確認済み |
| リズムパターン | 抽象的にしか書けない | 1音単位で設計済み |
| 音色 | 想像で書くしかない | 方向性を耳で確認済み |
| メロディ | 完全にAI任せ | 確認して歌詞の音節数に反映 |
| 試行錯誤 | 再生成ガチャ | リアルタイムで調整 |
| 必要な音楽知識 | それなりに必要 | Claudeが補完 |
大きな違いは**「耳で確認している」ステップがあるかどうかです。そして音楽の知識がなくてもこの流れが使える**のは、Claudeが翻訳してくれるからです。
実際の流れ
自分 :「フェスティバルっぽい曲を作りたい」
Claude :「3パターン提案します。どれが近いですか?」
自分 :「Dメジャーのサニーなやつで」
Claude :(Strudelにコードを書いて鳴らす)
自分 :「コードはいい。もっとフェスっぽく」
Claude :「アコギストローク、エレキクリーン、シンセパッドの3択ではどうですか?」
自分 :「アコギ」
Claude :(アコギに差し替えて鳴らす)
自分 :「いいね。メロディも聴きたい」
Claude :(コード進行に合うメロディを書いて鳴らす)
自分 :「これだ。歌詞も書いて」
Claude :(メロディの音節数に合わせて歌詞を生成)
自分 :「Sunoに渡したい」
Claude :(録音データを用意し、プロンプトを作成)
音楽理論の用語は一度も使っていません。「サニー」「フェスっぽく」「これだ」──感覚的な言葉だけで設計図ができています。
まとめ
AI音楽ツールはすごいです。でも「すごい道具」に「なんとなくの指示」を出しても、「なんとなくの結果」しか返ってきません。
やることはシンプルです。
1. 対話型AI(Claude)と一緒に設計図を作る。 音楽の知識はClaudeが持っています。自分は感覚で選ぶだけです。
2. Strudelで実際に鳴らして耳で確認する。 想像で書くプロンプトと、聴いて確認してから書くプロンプトでは精度が全く違います。
3. その設計図を生成AI(Suno)に渡す。 「かっこいい曲作って」ではなく、具体的な発注書として。
生成AIに丸投げするのではなく、対話型AIと一緒に設計図を描いてから発注する。これだけで、AIが作る音楽のクオリティは確実に変わります。